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大津地方裁判所 昭和35年(む)83号 判決

被告人 中井弘二

決  定

(申立人(弁護人)氏名略)

右の者から被告人中井弘二に対する窃盗被告事件について大津簡易裁判所裁判官西村実太郎が昭和三十五年六月十六日になした保釈決定に対し準抗告の申立があつたので当裁判所は左のとおり決定する。

主文

原決定を次のとおり変更する。

別紙記載の条件を附して被告人中井弘二の保釈を許す。

保証金は弐万円とする。

理由

本件準抗告の要旨は抗告申立書記載のとおりであるからこゝにこれを引用する。

本件被告事件の一件記録によれば大津簡易裁判所裁判官西村実太郎が昭和三十五年六月十六日申立人主張のように保証金を四万円として保釈決定をなした事実は明白である。しかしながら該記録を検討するに、本件公訴事実は被告人が中古自転車一台(時価約三、〇〇〇円相当)を窃取したというのであり、しかも右自転車は既に被害者に還付せられている事実、被告人には前科として詐欺一犯があるが、既に執行猶予期間を経過している事実、被告人は本件犯行を取調官に対し仔細に自白している事実、被告人は本件犯行前朝日石綿株式会社のスレート工として働き日給五五〇円程度を得ているが、生活費等に一杯で資産というべきものがなく、友人に借金をしたりしていた事実及び被告人は本件犯行前実家から無断で兄所有の現金一〇、〇〇〇円を持出している事実を認めることが出来る。以上の諸点に徴すれば刑事訴訟法第九三条第二項に所謂「被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額」として原決定の四〇、〇〇〇円は高きに失するといわねばならず、諸事情をかれこれ勘案すれば、本件保釈の保証金としては二〇、〇〇〇円が相当と思料される。尚、職権をもつて調査するも被告人につき同法第八九条所定の各号に該当する事由ありとは認められない。

果してしからば原決定の保釈保証金を不当とする本件準抗告の申立は右認定の限度で理由があると認め原決定は右限度において変更さるべく、同法第四三二条、第四二六条第二項を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 江島孝 佐古田英郎 吉川正昭)

指定条件

一、逃亡し若しくは罪証を湮滅すると疑はれるような行動は避けなければならない。

二、召喚を受けたときは正当な理由がなく出頭しないようなことがあつてはならない。

三、被告人は滋賀県甲賀郡甲賀町大字上田一、三二五に住居しなければならない。

四、三日以上の旅行又は転居の際には予め書面を以て裁判所に申出て許可を受けなければならない。

出獄の上は右記指定条件を忠実に守らねばならない。若し之に違反するときは保釈を取消し保釈金も没取することがある。

準抗告の申立

申立人 中井弘二

弁護人 浜田博

昭和三十五年六月十六日大津簡易裁判所裁判官西村実太郎が右被告人の保釈請求に付なした被告人中井弘二の保釈を許す、保証金は金四万円とするとの保釈決定は不服に付準抗告の申立をします。

抗告の趣旨

原決定の中保証金を四万円とするとの部分を取消し相当額の保証金とするよう求める。

抗告の理由

原決定の保釈保証金は金四万円であるが左記事由に基き右保証金額は甚だしく不当であると思料する。

一、本件の被害は中古二十六吋自転車一台時価三千円相当であつて極めて僅少であるのみならず盗品は返還せられている。

二、被告人には詐欺の前科はあるが既に執行猶予期間を経過し判決は効力を失つている。

三、被告人に逃亡、証拠湮滅の虞れのないことは検察官の保釈求意見の回答が「可然」とあるにより明白である。

四、被告人に資産なく、被告人の実兄が東洋レーヨン株式会社滋賀工場に勤め月収二万円余あるのみである。

五、従来の保釈保証金の実例に徴せば保釈保証金は一万円位である。

刑事訴訟法第九十三条第二項には「保証金額は犯罪の性質及情状証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない」と規定せられて居り徒に保証金を多くせよとの趣旨ではない。

右被告人の保証金額は前記諸事実を綜合せば、その相当額は金一万円位と信ずる

仍て茲に本準抗告に及びました。

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